100年ダイアリー

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三島由紀夫「春の雪」を読んで思ったー日本の人口減少は日本語市場の衰退⁉

  昨年(2020年)は三島由紀夫没後50年にあたり命日である11月25日前後にはテレビや出版、ネット界隈で三島関連の話題が多かった。筆者も高校生の頃から三島には強い関心があったので、それらの媒体での三島関連ニュースをウォッチしながら久しぶりに三島由紀夫の小説でも読むかと手に取ったのが、三島由紀夫最後の小説である「豊饒の海」の第1巻「春の雪」であった。

 あらすじですが、時代は明治末期から大正時代の初期。学習院の学生である主人公の松枝清顕(まつがえ きよあき)18歳は武家の出である松枝侯爵の長男。松枝家は武家の出で雅な文化に疎いので長男の清顕に公家の出である綾倉伯爵に預けられる。綾倉伯爵には清顕よりも2歳年上の長女聡子(さとこ)がいた。二人は幼い時からお互いに惹かれ合いながら成長してきた。清顕18歳聡子20歳になった年のある日、清顕は聡子から「私がもし急にいなくなってしまったとしたら、清様、どうなさる?」と意味ありげなことを言われ自意識過剰で自尊心が強い清顕は聡子に対して反発した態度をとるが、ある雪の降る春の日に人力車を手配して聡子とお忍びデートをする。それからまた、反発した態度をとり続け、やがて聡子に皇族との婚約の話が持ち上がるが清顕は無関心の態度で通しスルー、婚約は天皇から勅許が下りて成立する。この間、聡子から清顕へ手紙や電話や伝言が届くが清顕はすべて無視。一般社会には結納に当たる納采の儀の日取りが近づいてきたある日に、突然清顕は聡子に会いたいと聡子の婆やである蓼科に強引に会いに行く。蓼科は困惑しながら「若様、いくらなんでも遅すぎます。」と苦言するが将校御用達の連れ込み宿でついに聡子と引き合わせ、それから逢引きを重ねていく。それから事態は両家の家族を巻き込んで二転三転していくき、ネタバレしますが、聡子は奈良県の尼寺で出家し、会いたくなった清顕は尼寺へ足を運び面会を希望するが、何度行っても門前払いとなりやがて肺炎にかかり20歳で死んでしまう。この小説はテーマが生まれ変わりなので次作では違う人物に生まれ変わるのである。

 昭和の文豪の小説をザックリと要約してみたが、この物語に登場される上流階級の日常生活で使われる言葉遣いや服装や所作の言葉は、令和を生きる私にとって、普段の日常では決して耳にしない言葉ばかりである。この小説に登場する美しい日本語の言葉の数々。また美しい言葉を書き綴る文体のリズムは聴き心地のいい交響曲を聴いているようである。読んでいくうちに令和の日常から離れて異世界へと誘ってくれる。能や狂言のような幽玄の世界へと読む人を導く文豪の文章には日本語が持っている言葉の魔力を感じてしまう。さすが昭和の文豪三島由紀夫である。と、文豪の小説の書評をするにはあまりにも教養が低い筆者の拙文には僭越の言葉以外には思い浮かばない。 

 この小説を読み終えて思ったのだが、三島由紀夫が自らの手で45年の生涯を閉じてから50年たった。1970年の翌年には年間の出生者数が200万人を超えていた団塊ジュニアが生まれた時代と比較して2005年には出生者を死亡者が上回り、2020年の出生者は86万人、死亡者は137万人である。日本人は減少している。日本語が公用語の国は日本1国のみなので日本人の減少は日本語市場の縮小になる。文豪の美しい日本語を堪能できる人間も減っていく一方である。このことにどれだけの人が危機感を抱いているのだろうか。

 また、この小説を筆者は最新の新潮文庫で読んだのだが、巻末を確認すると令和二年十一月一日新版発行とあり、その前の版は令和元年八月十日八十六版とある。文庫になったのが昭和52年(1977年)とある。昭和45年(1970年)の三島の死後の7年後である。それから新潮文庫は87回も版を重ねているのである。それゆえなのか、この最新版にはルビが多い。令和の日常には耳にしない大正時代の言葉、また後半には仏教用語が多く出現するので、これから三島由紀夫の小説を読もうとする平成育ちの若い読者には大変親切である。出版社の職業的良心なのだろう。三島由紀夫の小説の主人公は若者ばかりなので、出版社が想定する読者も高校生や大学生など若者なのだろう。筆者も高校生の頃に読み始めたのであるから。

 筆者はこの小説「春の雪」を当初は電子書籍で読もうと思い、Amazonで検索してみたのだが電子版がないのである。つぎに「三島由紀夫」と検索してみると電子版があるのは「三島由紀夫について書かれた本」であって「三島由紀夫が書いた本」ではない。今度は「Mishima Yukio」と検索してみると英語版の「Spring Snow」の電子版(kindle版)はあった。英語版は「金閣寺」や「午後の曳航」もあった。うーむ、出版社の都合なのか、著作権保持者の都合なのか。新潮社以外の近年話題になった集英社刊「命売ります」の電子版もなかった。太宰治司馬遼太郎の小説の電子版はあった。

  最後まで我が拙文を読んでくださってありがとうございました。

 

春の雪 (新潮文庫)

春の雪 (新潮文庫)